キャンモア – 絶景の果てで、汗まみれの体温に触れる

Vancouver → Hope → Merritt → Kamloops → Blue River → Mount Robson Provincial Park → Jasper → 【Highway 93】Saskatchewan River Crossing → Peyto Lake → Banff → Canmore

Yellowhead Highway

当初のゴールはバンフだった。
だが無計画なロードトリップの常で、着いた頃にはホテルは満室。
仕方なく車を走らせ、キャンモアという小さな町で夜を明かすことになった。

着く頃には、景色に対する感度はもうバグっていた。
何を切り取っても絵になる数日間を過ごしすぎて、大絶景に目が慣れきっていたのだ。

キャンモアは、そんなロードトリップの果てに、ただ眠るためだけに立ち寄るはずの町だった。

チェックインを済ませ、少し歩きたくて外に出た。
目的地は決めていない。
ただ夜の空気を吸いたかっただけのはずが、歩いているうちに、誰かと話したくてうずうずしている自分に気づいた。

同年代くらいの女性2人組とすれ違う。
Google Mapで探せば済む話だが、僕はただ目の前にいる美女2人に話しかけたかっただけで、近くにいいパブはないかと聞いてみた。

彼女たちが教えてくれたのが、『The Drake Screaming Retriever Restaurant & Brewery』だった。

Living Room

築40年。
キャンモアの住人が「リビングルーム」と呼んで愛するその店は、外の静けさが嘘みたいに熱気で満ち溢れていた。

ウッド調の店内は二つの顔を持つ。
片側はDJが低音を鳴らすダンスフロアで、もう片側は生演奏のライブスペース。
少し落ち着きたければ、テラスに出て冷たい風にあたるのも良しである。

カウンターでボトルビールを受け取った直後、リミックスされたABBAの『Dancing Queen』が鳴った。
まるで映画のワンシーンみたいに、女の子たちがなだれ込んできて、目の前で踊り始める。
少し遅れて地元の男たちも合流し、フロアはあっという間に埋まった。
観光客の匂いは一切なく、みんなただ踊ることだけに夢中だった。

ウェスタンな格好の人が多い中、やけに目を引く二人組がいた。

一人は、妹が描いたという大きなNarutoのペイントを施したジーンズを履きこなすSean。
もう一人はブロンドで、「センスが良い」という言葉を具現化したような男、James。
二人とも携帯を一切触らず、ただお互いの奇抜なステップを笑い合いながら、体ごとその場を楽しんでいる。

画面の向こう側の誰かではなく、今、目の前にいる人間と、鳴っている音楽だけに100パーセントの焦点を合わせている。
その潔いまでの現在への没入が、たまらなく格好良かった。

気づけば、僕は彼らに声をかけていた。
バンクーバーから車で来たこと、そもそも日本からカナダへ来ていること。

話しているうちにすっかり打ち解け、いつの間にか彼らの仲間の輪に混ざって踊っていた。
フロアにいる誰もが顔見知りらしく、ここが本当に地元の人たちの居場所なのだと分かった。

DJがかけるのは80年代から2000年代初頭の曲をハウスやテクノ風にリミックスしたものばかりで、普段クラブに行かない僕でも聴き覚えのある曲ばかりだった。

違う空気が欲しくなれば、隣の部屋へ移る。
そこでは地元のイケオジたちがステージの上で汗だくになりながら、OasisやSmash Mouthの名曲を熱唱していた。
観客も肩を組み、声を枯らして歌う。

さっきまでフロアで踊っていた女の子が勢いでステージに上がっても、演奏は止まらず、むしろ、その場はさらに沸いた。

Jam Band

「もう閉店です」と告げる白い照明がフロアを照らしてもなお、僕たちは踊り続けた。

店を出ると、外は変わらず静かで、冷たい空気がさっきまでの興奮を徐々に和らげてくれる。
暗闇の向こうには、山々が黒い影となって町を見下ろしていた。

この数日間、世界有数の絶景をいくつも見て、カメラ越しにその美しさを撮り続けてきた。
それでも、心が一番激しく動いたのは、そこに暮らす人たちとの数時間だった。

どれだけ壮大な景色の中にいても、結局僕が惹かれるのは、その土地で生きている人なのだと思う。
振り返れば、記憶に焼き付いているのはいつも大自然そのものではなく、そこで暮らす人たちの、少し泥臭い日常の方だった。

SeanもJamesも、彼らの仲間たちも、自分の街と仲間を心から愛しているように見えた。
それを見ていて、ふと自分の地元を思い出した。
僕にも大切な仲間がいて、大好きな墨田区という地元がある。

彼らの姿は、僕にもう一度、自分の故郷を大切にしようと思わせてくれた。

北海道の東川町はCanmoreと姉妹都市らしい。
数年前、僕がイランを除いて初めて海外に行き移住を決断する直前の国内旅がこの東川町やその付近だった。
いつか彼らを連れて行けたらいいなと思う。

ただ眠るためだけに立ち寄ったキャンモア。
彼らのリビングルームにお邪魔したおかげで、気づけばこの旅の本当の目的地になっていた。

Canmore

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