生きる美学をまとう人々

アフリカ大陸の南西に位置するナミビア。
その北部の乾いた大地にヒンバ族は暮らしている。

写真家や旅行者からは、その独特の美意識と生活様式から「世界一美しい民族」と呼ばれることもある。

けれど彼らにとって美しさとは飾りではなく、生きるための術だった。
その術が積み重なり、やがて揺るがない美学として受け継がれていく。

ヒンバ族の村

まず目を奪うのは、女性たちの赤褐色の髪だ。

牛脂と赤土を混ぜた「Otjize(オチゼ)」を髪に塗り込む。日差しや虫から身を守る工夫であり、同時に彼女たちの美を映す色でもある。

乾いた風に揺れる赤は、この土地の色に不思議と馴染んでいた。

美を整える手

頭には「Erembe(エレンベ)」と呼ばれる羊皮の冠。

既婚の女性や出産経験のある女性に許された印で、編み込まれた髪飾りと合わせて身に着ける。
年齢や人生の段階は装いにも表れ、子ども、成人、既婚者で髪型やアクセサリーが変わる。

見れば、誰がどの段階にいるのかが自然と分かる仕組みだ。

赤と冠

彼らの家の中には、中央に火床がある。

炭の上にハーブを載せると、香のような煙が立ちのぼり、小屋の空気を満たしていく。
「この煙で体を清めるんだ」と彼らは教えてくれた。
煙で毛穴を開かせ、平たい棒で肌の汚れをこすり落とし、仕上げにオチゼを塗り直す。

それが彼らの入浴の作法だという。
水が貴重なため、髪は水で洗わず木灰で清めるやり方もあると聞いた。

煙の儀式

香木の香り

外に出ると、子どもたちが笑い、女性たちが集まる。

足を踏み鳴らし、手を叩き、一定のリズムが生まれる。
そのビートに合わせて、一人ずつ前に出て踊る。
楽器はない。そこにいる全員で刻む音だけが、場の空気を揺らし、踊りへと変えていく。

遠くから来た訪問者への、即興の歓迎だった。

歓迎の舞

混ざり合う舞

都市の便利さに慣れた目には、彼らの暮らしは不便に映るかもしれない。
けれど、身支度のひとつ、所作のひとつにまで意味が通い、長く続く時間が刻まれている。

特別な演出は何ひとつないのに、立ち姿だけで美しい。
ヒンバの人々は、そういう存在だった。